今さら安室奈美恵論

YouTubeで久しぶりに安室奈美恵を見た。それも、Doubleと一緒にライブでBLACK DIAMONDを歌っているやつを。BLACK DIAMONDは2008年にリリースされたものだから、ちょうどヴィダルサスーンのCMで再ブレイクを果たした頃の映像だろう。とにかく美しく、可愛い。そして表情がとても明るく、自信に溢れているように思う。

 

YouTubeの関連動画を次々にクリックするうちに、アムロはもう引退をしたのだな、という思い、それから最後のライブを沖縄で行った彼女は、果たしてどんな気持ちでその場にいたのだろうかという気持ちになった。

 

安室奈美恵論は世間にいくらでもあるのだろう、そしてニュースの多くも、数々の記録であるとか、ライブがすごいであるとか、流行を生みだしたであるとか、そういったポジティブな内容のものが多く目に付く。けれど、もちろん我々は忘れていない、彼女の歴史を。いや、彼女とともに過ごした25年という時の流れを。

 

そうなのだ、彼女は顔が小さくて、スタイルも良くって、そして歌も上手く、ライブではピンヒールで踊りまくる、格好良さと可愛さを兼ね備えた、まぎれもなく日本の歌姫・・それは間違いない。けれど、本当に、安室のことを思う時に、それはアイドルとしてではなく、歌手、アーティスト、あるいは芸能人としてでもなく、一人の人間として、もちろん想像や憶測を出ないのだけれど、彼女の人生を思うと、静かに、胸を熱くせずにはいられないのだ。

 

 

多勢がそうであるように、自分もまた一番最初に安室を認識したのは、スーパーモンキーズ時代である。それはロッテのCMから、次にTRY MEのヒットによって。安室の最初のアルバム、DANCE TRACKS VOL.1のジャケット写真にある、サテン生地(?)のシャツにミニスカ、厚底ブーツというまんまの格好で、バイト先の1コ上の女の先輩(いや、後輩だったかな)がバイト上がりにデートに向かっていったのを覚えている。そういや青のサテン生地のシャツは合コンで気になった女の子も着ていたんだった。そして眉毛である。女子は細い眉というのが当時の常識で、高校生だった自分の姉も、当然のように毎日眉毛を抜きまくっていた。

 

その頃テレビで見る安室は、とにかく高速のビートでダンスを踊りながらキーを外さずCD並みのクオリティで歌いまくっていた印象がある。そしてAvexに移り、小室プロデュースのBody Feels EXIT, Chase the Chance..と立て続けにヒットを連発しまくるわけだけれども、次のDon't wanna cryこそが、自分が安室のファンになったきっかけだった。それまでの早いビートではなく、少しゆったり目の、ブラックっぽい曲調。高音で歌の上手さを見せつけるのではない、まだ開店前のバーで従業員とまったりリズムを取りつつ開店準備を手伝うような、そんな雰囲気とノリが、当時背伸びしてブラックっぽいものに憧れていた自分にはまったんだと思う。それまでの、手の届かない隣のお姉さん的な雰囲気をまとったCDジャケットから打って変わった、アンニュイ?な優しい雰囲気のジャケットもまた好きだった。まぁとにかく見た目も良かったんです(笑)。そして、ブラックっぽいSWEET 19 BLUES、大ヒットしたCAN YOU CELEBRATE?を含むConcentration 20あたりまでは、熱した気持ちのままでいたのだ。結婚・出産を経てもその気持ちは変わらなかった。だって、当時から彼女をアイドルとして見ていたわけではなかったから。あくまで彼女の歌そのものが好きだったのだ。

 

その後は小室が手掛けるglobeが大きなヒットを連発するようになり、彼女もダラス・オースティンをプロデューサに迎え本格的にブラックへと傾倒してゆき、次第に楽曲自体が広く一般受けするものから離れていったようなタイミングで、自分もまた大学進学、一人暮らしといった環境の変化もあり、次第に遠ざかってしまっていた。沖縄サミットで披露した歌、あるいは楽曲そのものに対する期待からの落胆も少しはその理由に含まれていると思う。

 

けれど、think of meと、Say the wordは買ったな。だって曲が分かりやすかったから(笑)。結局自分はブラックミュージックを好きでも何でもない、単なる格好つけ野郎だった訳です。

 

その頃安室は何をしていたのかというと、SUITE CHICとして活動を始めていたのだ(今Wikipediaを見ながら書いています)。今でこそSUITE CHIC(で歌って踊る奈美恵が)超カッケーって思うけど、当時はほとんど気にも留めていなかった。だって、ニワカだから(笑)。そんでもって、GIRL TALKの頃から、エッて思うようになる。たぶん、自分も少しずつ大人になったんだと思う。ナニコレ、確かにCAN YOU~のような分かりやすさはないけれど、なんだか雰囲気、格好よくない~?(特に見た目)、みたいな。それで、再び安室のことが気になりだしたのです。

 

もうそれからは、某インターネットの某サイトにアップされていた、WANT ME, WANT MEやWoWaのPVを見て、「何これヤバイ」と一人PCの画面の前でつぶやきまくっていた。そして、CAN'T SLEEP~, Baby Don't Cry, FUNKY TOWN、これらもイケテル~と某掲示板の安室奈美恵スレをひたすらROMって満足していたわけです。だから、ヴィダルのCM、その直後のBEST FICTIONで再ブレークと言われた時には、そんなの当たり前じゃん、時代が安室に追いついた、みたいな風に勝手に思っていた訳ですね。まぁ、ニワカな訳だけれども。

 

その後はとにかく世間的にも安室アゲ状態がほぼずーっと続き、そして彼女の引退に至るのは、多くの人の知るところ。

 

けれど、自分はニワカなのだけれども、そして安室は遥かに手の届かないスーパースターであって、決して友達ではないのだけれども、なぜか、不思議に、とても身近に感じることのできる、心の中で励まされるような、そんな存在だという風に感じるのです。

 

彼女が、アクターズスクールの時代に、自分の好きなことを実現するために、お金がない(あるいは貧しいのを分かっているからこそ母親にお金をねだることができない)彼女の、分(ぶ)のわきまえ方と、けれども夢を実現するためのバイタリティと、そして本当にスーパースターになって、最後は自分の生まれ育った、あるいは夢をかなえるために踏ん張った沖縄で盛大に花火を打ち上げ、キャリアを締めくくるという、心の底からの畏敬の念を抱きつつ。

 

そして、ちょうど小室プロデュースが始まり、映画の主演やバラエティでの司会など、一通り「アイドル」としてのお仕事を頑張ってやっていたと思われる頃に、インタビュー記事の中で、「もう少しトークもできるようになりたい」と彼女が語ったこと。しかし現実には、CDの売り上げも徐々に落ちてゆき、ついには小室プロデュースも離れ、アイドルあるいはタレント、女優といった道ではなく、彼女が心底好きだと思えたもの、つまり歌と踊りに完全に集中していったこと。安室は確かに曲は書かない。宇多田、椎名林檎を筆頭にシンガーソングライター全盛の時代において、曲を書けなければアーティストでなしと言わんばかりのご時世において、ただ歌うこと、踊ることに関してプロであり続けたこと。トークはあまり得意でないからこそ、ライブではMCなしに自分の武器である歌と踊りに徹していること。

 

また、凄惨な事件があったこと。どんなにつらかったことだろうか、自分には想像できない。けれどもライブでは、プライベートは見せずに、彼女の最高のパフォーマンスを観客に提供することのみに全力を注いでいること。

 

このご時世、歌って踊ってトークもできて女優もできる、そんな方がたくさんいらっしゃるじゃないですか。そのような状況において、その道を選ばずに、歌と踊りを彼女の武器として戦ってきた、その姿勢が、本当にまぶしくて、羨ましくもあり、またそうなりたいという、憧れでもあるのです。なぜって、ほら、オレも、あまり自分から積極的に話をするタイプではないし、どっちかというとニガテだし、それに友達もたくさんいるわけじゃないから。。。

 

それに、仕事は嫌いじゃないけど、好きかって言われると返答に困るし、でも安室を思うと、これじゃダメだって、今でもたまにそう感じることがあるんです。

 

だって、仕事をしてお金をもらっているのだったら、それはプロだということでしょう?プロだったら、手を抜いてはいけません。全力で仕事に取り組む以外に成功の近道はないのです。安室を見れば、安室奈美恵を知れば、だれもがそう思うことでしょう。

 

だから、安室の歌っている姿を見ると、心が静かにざわついて、もっと頑張らなければと思う。自分は安室の1コ下だけれども、彼女がバスで通う距離を歩いているとき、自分は何をしていただろうか?何も考えずに、ただ友達と楽しく遊んでいただけだったろうに。

 

彼女が10代で4大ドームツアーを成功させたとき、それはもう遠い世界にいる芸能人の話でしかなかった。自分が何者であるかも分からず、田舎の小さい教室の中でちっぽけな悩みを思いめぐらすことはあっても、何も動けなかったのは自分だったろうに。

 

けれど、安室が引退の日、沖縄の地にいたこと、そこで彼女が考えていたこと、そんなの分かりっこないのに、でもその時の彼女の気持ちを思うと、涙が出そうになるのです。

 

そんなことを思いながら、今、Finallyを聞いている。そのジャケット写真が、それまでの彼女の表情とはまったく違うものだってのは、それぐらいは分かるよ、にわかファンだけれども。

 

かつての紅白で、いつも恥ずかしそうにモジモジしていたあなたが、WHAT A FEELINGやDo Me MoreのPVで見せた、確固とした自信に満ちた表情に変わり、信念をもって自分が正しいと思った道をやり続ければ良いのだということを、まさに彼女が証明しているのだと思った。

 

今自分は日本の片隅にいて、だけど自分のできることを精一杯やっていきたいと思っている、そう思えるのはあなたがいたからです。

 

だから、安室奈美恵には、心から感謝の気持ちを伝えたいのです。
アムロちゃん、本当にありがとう。